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「あたし、ゆるゆるだわ」
薄く開いた唇で、器用にタバコをくわえながら洩らした。
覇気の無い瞳が、天井の角を写している。
「パンツの紐をしめなきゃってわかってるけどさ…」
わぁー!と言わんばかりに、抱えた膝に顎を乗せる。
パンツじゃなくて褌でしょ。
そう思いながらも僕は口に出さないで、下降しているタバコの灰を灰皿で受ける。
彼女のパンツは紐じゃなくてゴムだし、例え紐でも、ストッキング愛用だから、落ちることはない。
「弦はさ、少し弛い方がいい音が出るよ。弓もさ、張りすぎたら矢は飛ばせないよ」
君が糸を切ってしまわないように、僕が側で調律するから。
「……」
メンソール味の舌は、タバコを吸わない僕に、ピリッとした刺激と、彼女の不器用なありがとうを運んできた。
そして恥ずかしそうに、また部屋の天井の角を見ている彼女は、今日も特別かわいい。
僕は灰皿を床に置いて静かに立ち上がると、ワンルームにくゆる煙の先を、蝶々を捕まえるように、そっと両手で包みこんだ。
薄く開いた唇で、器用にタバコをくわえながら洩らした。
覇気の無い瞳が、天井の角を写している。
「パンツの紐をしめなきゃってわかってるけどさ…」
わぁー!と言わんばかりに、抱えた膝に顎を乗せる。
パンツじゃなくて褌でしょ。
そう思いながらも僕は口に出さないで、下降しているタバコの灰を灰皿で受ける。
彼女のパンツは紐じゃなくてゴムだし、例え紐でも、ストッキング愛用だから、落ちることはない。
「弦はさ、少し弛い方がいい音が出るよ。弓もさ、張りすぎたら矢は飛ばせないよ」
君が糸を切ってしまわないように、僕が側で調律するから。
「……」
メンソール味の舌は、タバコを吸わない僕に、ピリッとした刺激と、彼女の不器用なありがとうを運んできた。
そして恥ずかしそうに、また部屋の天井の角を見ている彼女は、今日も特別かわいい。
僕は灰皿を床に置いて静かに立ち上がると、ワンルームにくゆる煙の先を、蝶々を捕まえるように、そっと両手で包みこんだ。
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「あたし、ゆるゆるだわ」
薄く開いた唇で、器用にタバコをくわえながら洩らした。
覇気の無い瞳が、天井の角を写している。
「パンツの紐をしめなきゃってわかってるけどさ…」
わぁー!と言わんばかりに、抱えた膝に顎を乗せる。
パンツじゃなくて褌でしょ。
そう思いながらも僕は口に出さないで、下降しているタバコの灰を灰皿で受ける。
彼女のパンツは紐じゃなくてゴムだし、例え紐でも、ストッキング愛用だから、落ちることはない。
「弦はさ、少し弛い方がいい音が出るよ。弓もさ、張りすぎたら矢は飛ばせないよ」
君が糸を切ってしまわないように、僕が側で調律するから。
「……」
メンソール味の舌は、タバコを吸わない僕に、ピリッとした刺激と、彼女の不器用なありがとうを運んできた。
そして恥ずかしそうに、また部屋の天井の角を見ている彼女は、今日も特別かわいい。
僕は灰皿を床に置いて静かに立ち上がると、ワンルームにくゆる煙の先を、蝶々を捕まえるように、そっと両手で包みこんだ。
薄く開いた唇で、器用にタバコをくわえながら洩らした。
覇気の無い瞳が、天井の角を写している。
「パンツの紐をしめなきゃってわかってるけどさ…」
わぁー!と言わんばかりに、抱えた膝に顎を乗せる。
パンツじゃなくて褌でしょ。
そう思いながらも僕は口に出さないで、下降しているタバコの灰を灰皿で受ける。
彼女のパンツは紐じゃなくてゴムだし、例え紐でも、ストッキング愛用だから、落ちることはない。
「弦はさ、少し弛い方がいい音が出るよ。弓もさ、張りすぎたら矢は飛ばせないよ」
君が糸を切ってしまわないように、僕が側で調律するから。
「……」
メンソール味の舌は、タバコを吸わない僕に、ピリッとした刺激と、彼女の不器用なありがとうを運んできた。
そして恥ずかしそうに、また部屋の天井の角を見ている彼女は、今日も特別かわいい。
僕は灰皿を床に置いて静かに立ち上がると、ワンルームにくゆる煙の先を、蝶々を捕まえるように、そっと両手で包みこんだ。
「「じゃんけんぽん!」」
「げ、ここもかよ」
やっとの思いで部屋に帰り着いた俺は、すっかり夜のネオンに支配された街の隙間で一人ごちた。
傷は絶えず生まれ、消えかけてはまた生まれる。
医者にかかる気などさらさらない。だいたい金が無い。
大概市販薬で治るか、骨を折った時だって、多少歪んでいるが不自由なくくっついた。
「寝てりゃーいんだよ」
傷を負えば舐めて、内側ならひたすら休める。
それが、本来の動物の生き方だ。
学はサンプルの上にある。
俺だって、前は医学科学化学勉学に頼って、何かあるとすぐ、生に直結することに執着してた。
止めたのはある日の夜。部屋のベランダから、酔っ払いが異物を払うように吐いてるのを見たら一瞬で冷めた。
もし、あいつがあのまま倒れて病院に運ばれたら、何をされるんだろう。
俺の中で、もし、が幅をきかせてきて、終いにはこっちまで吐いた。
俺は、不安を追求するのを止めた。
正確には、他人に任せるのを止めた。
自分の痛みは、自分だけが知ってればいい。
今生きてる奴らは、沢山の涙や痛み、屍の上にいる。
でもさ、悪いけど俺は、このまま朽ちてもいいんだ。
だから、お前は何も知らなくていいんだよ。
やっとの思いで部屋に帰り着いた俺は、すっかり夜のネオンに支配された街の隙間で一人ごちた。
傷は絶えず生まれ、消えかけてはまた生まれる。
医者にかかる気などさらさらない。だいたい金が無い。
大概市販薬で治るか、骨を折った時だって、多少歪んでいるが不自由なくくっついた。
「寝てりゃーいんだよ」
傷を負えば舐めて、内側ならひたすら休める。
それが、本来の動物の生き方だ。
学はサンプルの上にある。
俺だって、前は医学科学化学勉学に頼って、何かあるとすぐ、生に直結することに執着してた。
止めたのはある日の夜。部屋のベランダから、酔っ払いが異物を払うように吐いてるのを見たら一瞬で冷めた。
もし、あいつがあのまま倒れて病院に運ばれたら、何をされるんだろう。
俺の中で、もし、が幅をきかせてきて、終いにはこっちまで吐いた。
俺は、不安を追求するのを止めた。
正確には、他人に任せるのを止めた。
自分の痛みは、自分だけが知ってればいい。
今生きてる奴らは、沢山の涙や痛み、屍の上にいる。
でもさ、悪いけど俺は、このまま朽ちてもいいんだ。
だから、お前は何も知らなくていいんだよ。
夕方18時から、朝方4時まで開いている店の奥。
個室の、かまくらのような造りの空間には、小さく丸いちゃぶ台。
床板に直に置かれた、柔らかく蜜柑色の光を放つランプ。
そして、大きなお手玉のような、無造作に変型する枕。
これからが仕事の時間。
私はちゃぶ台に携帯電話を置いて、場にそぐわない電子音が鳴るのを待つだけ。
「おっと!」
私はちゃぶ台の上に自前の水筒を出し、携帯電話の命綱の線を繋いで、
四つん這いで壁の二つ穴に挿した。
「完璧」
他には誰もいない空間で、肩越しにちゃぶ台に薄笑いを送った途端、私の毛穴がゾワリと開いた。
携帯電話が鳴り出して、私は四つん這いのままちゃぶ台に張り付く。
「カモーン、ベイビー、イェアー!」
受話器マークを押すと、鼓膜に届いたのは英国訛りの英語だった。
――ちっ!
米語だと思った勘が外れて、私は閉じた瞼を開く。
『お待ちしておりました。お話をどうぞ…』
昨日の最初はロシア語、その前はフランス訛りのアラビア語、
その前は日本の、懐かしい故郷の言葉だった。
個室の、かまくらのような造りの空間には、小さく丸いちゃぶ台。
床板に直に置かれた、柔らかく蜜柑色の光を放つランプ。
そして、大きなお手玉のような、無造作に変型する枕。
これからが仕事の時間。
私はちゃぶ台に携帯電話を置いて、場にそぐわない電子音が鳴るのを待つだけ。
「おっと!」
私はちゃぶ台の上に自前の水筒を出し、携帯電話の命綱の線を繋いで、
四つん這いで壁の二つ穴に挿した。
「完璧」
他には誰もいない空間で、肩越しにちゃぶ台に薄笑いを送った途端、私の毛穴がゾワリと開いた。
携帯電話が鳴り出して、私は四つん這いのままちゃぶ台に張り付く。
「カモーン、ベイビー、イェアー!」
受話器マークを押すと、鼓膜に届いたのは英国訛りの英語だった。
――ちっ!
米語だと思った勘が外れて、私は閉じた瞼を開く。
『お待ちしておりました。お話をどうぞ…』
昨日の最初はロシア語、その前はフランス訛りのアラビア語、
その前は日本の、懐かしい故郷の言葉だった。