[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「暑いなぁ…」
職場の先輩、緒田さんがぽつりと言った。
まずい、彼が動く。
俺はうちわを扇ぎながら、横目で見た。
「ハ〇ハ〇、食べたくない?」
「いいですね。やりますか」
ほら、やっぱり乗ったじゃないか。
「安芸文くんなら言ってくれると思った」
緒田さんが嬉しそうに笑う。
そりゃそうだろう。俺の彼氏は、この先輩が大好きなのだから。
「篠乃目」
横から、安芸文さんが圧をかけてくる。
正直、冷たいものは食べたいが、その為に暑い中店に行く気力がない。
「「おとこぎじゃんけん、じゃんけん、ぽん!」」
2人の声に乗って、つい自分も手を出した。
ちなみに漢気じゃんけんとは、負けた方が勝ち。最後まで勝った人が奢るというシステムなのだ。
「よし!」
「やったー!負けた!」
「うそやん!」
「じゃあ、ののちゃん。いますぐハ〇ハ〇買ってきて」
机につっぷす俺を無視して、緒田さんはスマホでハ〇ハ〇のメニューを検索し始めた。
「イチゴ」
安芸文さんがさらっと言う。
言われなくても知ってる。
期待する子供の顔して…くそぉ可愛いな。
職場の備品自転車に跨り、力強くペダルを踏もうとした時、裏口から安芸文さんが出てきた。
「俺も、タバコ買うから行く」
タバコなんて自販機で買えばいいし、なんなら頼めばいいのに。
梅雨が明けて、雲もほとんどなくて、作業服は夏用でも暑くて。
「…安芸文さんって、俺のこと好きだよね」
「ん?」
最後の1本を箱から出して、大きな掌でぐしゃりと潰した安芸文さんは、タバコに火を点けると、自転車の後ろに乗って俺の肩に手を置いた。
「たまには高校生ごっこもいいだろ?」
「タバコ咥えてる高校生は停学だよ」
帰りの坂道では、ゆずの夏色でも歌おうか。
1年8か月ぶりの夏海と安芸文SS
昨日の午後、台風が近づく中、空が青く雲が白く上に伸びていた。
さらに、昨夜遅くまでゲームをやってしまったおかげで、月曜日の朝からぼんやりしてしまう。
そんなオレを見兼ねて、先輩の緒田さんが昼飯を奢ってくれた。
腹が満たされると、眠気が襲ってくる。
目を覚まそうと隣室の小さい冷蔵庫を覗くと、紙パックの紅茶にオレの名前が書いてあるのを見つけた。
【しののめ】
自分で買った覚えも、名前を書いた覚えもない。そもそも、オレの字じゃない。
最初は緒田さんかとも思ったが、あの人ならいつもの呼び方【ののちゃん】と書いて、ハートとかニコニコマークでも描くだろう。
ともかく、冷蔵庫を開けっ放しにしているのは勿体無い。
「誰だか知らないけど、飲んじゃうぞ」
パックを手に取ると何かが指先に触れ、付いていたのは、素っ気ない付箋に書かれた文字だった。
【ロッカー】
「これは…」
オレはある人の顔を浮かべながら、パックを片手に自分のロッカーを開けた。
【机の引き出し】
ここにも付箋が貼ってある。
「まだ続くのかよ」
思わず本音が漏れたが、仕掛けたのは、掴まえて欲しいのに素直になれない恋人だろう。
そんな彼がウキウキと仕込んでいる姿を想像して、笑いが漏れた。
1つ目、2つ目と引き出しを開けても、特に変わったところは無い。 メッセージの書かれた付箋も無い。
3つ目。一番大きな、ファイルと非常食(カップ麺とお菓子)の入っている引き出しを開けると、見覚えのないお洒落な柄の紙袋があって、中には焼き菓子だけが入っていた。
オレは時間を確認した後、携帯でメッセージを送った。
《引き出し見たよ》
【思ったより早かったな】
すぐに既読が付いて、返信が来た。
《会議巻いてるから、今日中には帰れそうだ》
この1文で、オレの誕生日に一緒にいられないと思った安芸文さんが、せめてと思って用意してくれたのだとわかった。
《駅まで迎えに行くよ》
《ところで、オレが冷蔵庫見なかったらどうするつもりだったの?》
【別に。腐らないし】
【緒田さんに、定時までに見なかったら言ってくれって頼んである】
「へ?」
振り返ると、目が合った緒田さんが笑いながら親指を立て、オレは椅子から転げ落ちそうになった。
まったく…この2人の仲の良さに、妬けばいいのか慣れればいいのか、新しいメッセージを見ながら苦笑した。
【早く会いたい】
「オレもだよ」
2018.11.05
篠乃目夏海BDSS 【メモを辿れば】
【みらいの約束】
流れで付き合うようになって、初めての冬。
俺は部屋の隅で膝を抱えながら、恨めしそうに睨んでくる篠乃目夏海を見ていた。
「前から約束してたんだから、しょうがないだろ」
そう言っても篠乃目は、ううーっ。と姿勢を崩さない。
「甥姪ちゃん達のことはわかるけど、オレだって安芸文さんとクリスマス一緒に遊べると思ったのに!」
「だからー」
姉の子供である二卵性双子は、赤ん坊の頃から遊んでやっている為か俺に懐いていて、小学生になった今でも、実家で会うとベタベタしてくるのだ。
その双子の父親が今年から海外に単身赴任してしまい、楽しみにしていたクリスマスにスキーに行く予定がダメになってしまった。
姉は、来年行けばいい。と窘めたが、あまりの落胆ぶりに俺が同伴してやると約束したのだ。
それが春のこと。篠乃目とのきっかけは夏。
「お前とは年末年始も一緒にいるし、クリスマスなら来年もあるだろ」
目線を外して独り言のように呟くと、篠乃目が素早く寄ってきた。
「うぉっ、近いよ」
「今の、忘れないから」
瞳をキラキラさせながら、見えない尻尾をぶんぶん振り回している。
思わず噴き出した俺が鼻先にキスをすると、篠乃目はお返しとばかりに唇に触れるだけのキスを返してきた。
「ぅおっしゃ! 安芸文さん、25日には帰ってくるだろ? どっか行こう」
「は? 往復何時間運転すると思ってんだ」
「じゃあオレも一緒に行、」
「いらねぇよ」
圧し掛かろうとする体を、横になぎ倒した。
以前のページは残しますが、今後の更新はこちらのみになります。
引き続き、よろしくお願い致します。
2015.11.1
管理人:あもう灯留
(高いお茶の淹れ方なんて知らないから、物知りな先輩職員さんにお願いした)
ちなみに、お金は部長が出してくれた。
一生ついていきます。
(篠乃目夏海)