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今日はオレの誕生日だというのに、恋人の安芸文さんは出張で職場にいない。
さらに、昨夜遅くまでゲームをやってしまったおかげで、月曜日の朝からぼんやりしてしまう。
そんなオレを見兼ねて、先輩の緒田さんが昼飯を奢ってくれた。
腹が満たされると、眠気が襲ってくる。
目を覚まそうと隣室の小さい冷蔵庫を覗くと、紙パックの紅茶にオレの名前が書いてあるのを見つけた。

【しののめ】

自分で買った覚えも、名前を書いた覚えもない。そもそも、オレの字じゃない。
最初は緒田さんかとも思ったが、あの人ならいつもの呼び方【ののちゃん】と書いて、ハートとかニコニコマークでも描くだろう。
ともかく、冷蔵庫を開けっ放しにしているのは勿体無い。

「誰だか知らないけど、飲んじゃうぞ」

パックを手に取ると何かが指先に触れ、付いていたのは、素っ気ない付箋に書かれた文字だった。

【ロッカー】

「これは…」

オレはある人の顔を浮かべながら、パックを片手に自分のロッカーを開けた。

【机の引き出し】

ここにも付箋が貼ってある。

「まだ続くのかよ」

思わず本音が漏れたが、仕掛けたのは、掴まえて欲しいのに素直になれない恋人だろう。
そんな彼がウキウキと仕込んでいる姿を想像して、笑いが漏れた。

1つ目、2つ目と引き出しを開けても、特に変わったところは無い。 メッセージの書かれた付箋も無い。
3つ目。一番大きな、ファイルと非常食(カップ麺とお菓子)の入っている引き出しを開けると、見覚えのないお洒落な柄の紙袋があって、中には焼き菓子だけが入っていた。
オレは時間を確認した後、携帯でメッセージを送った。

《引き出し見たよ》
【思ったより早かったな】

すぐに既読が付いて、返信が来た。

《会議巻いてるから、今日中には帰れそうだ》

この1文で、オレの誕生日に一緒にいられないと思った安芸文さんが、せめてと思って用意してくれたのだとわかった。

《駅まで迎えに行くよ》
《ところで、オレが冷蔵庫見なかったらどうするつもりだったの?》
【別に。腐らないし】
【緒田さんに、定時までに見なかったら言ってくれって頼んである】

「へ?」

振り返ると、目が合った緒田さんが笑いながら親指を立て、オレは椅子から転げ落ちそうになった。
まったく…この2人の仲の良さに、妬けばいいのか慣れればいいのか、新しいメッセージを見ながら苦笑した。

【早く会いたい】

「オレもだよ」


2018.11.05
篠乃目夏海BDSS 【メモを辿れば】
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