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「暑いなぁ…」


職場の先輩、緒田さんがぽつりと言った。


まずい、彼が動く。


俺はうちわを扇ぎながら、横目で見た。


「ハ〇ハ〇、食べたくない?」


「いいですね。やりますか」


ほら、やっぱり乗ったじゃないか。


「安芸文くんなら言ってくれると思った」


緒田さんが嬉しそうに笑う。


そりゃそうだろう。俺の彼氏は、この先輩が大好きなのだから。


「篠乃目」


横から、安芸文さんが圧をかけてくる。


正直、冷たいものは食べたいが、その為に暑い中店に行く気力がない。


「「おとこぎじゃんけん、じゃんけん、ぽん!」」


2人の声に乗って、つい自分も手を出した。


ちなみに漢気じゃんけんとは、負けた方が勝ち。最後まで勝った人が奢るというシステムなのだ。


「よし!」


「やったー!負けた!」


「うそやん!」


「じゃあ、ののちゃん。いますぐハ〇ハ〇買ってきて」


机につっぷす俺を無視して、緒田さんはスマホでハ〇ハ〇のメニューを検索し始めた。


「イチゴ」


安芸文さんがさらっと言う。


言われなくても知ってる。


期待する子供の顔して…くそぉ可愛いな。


 


職場の備品自転車に跨り、力強くペダルを踏もうとした時、裏口から安芸文さんが出てきた。


「俺も、タバコ買うから行く」


タバコなんて自販機で買えばいいし、なんなら頼めばいいのに。


梅雨が明けて、雲もほとんどなくて、作業服は夏用でも暑くて。


「…安芸文さんって、俺のこと好きだよね」


「ん?」


最後の1本を箱から出して、大きな掌でぐしゃりと潰した安芸文さんは、タバコに火を点けると、自転車の後ろに乗って俺の肩に手を置いた。


「たまには高校生ごっこもいいだろ?」


「タバコ咥えてる高校生は停学だよ」


 


帰りの坂道では、ゆずの夏色でも歌おうか。












1年8か月ぶりの夏海と安芸文SS

昨日の午後、台風が近づく中、空が青く雲が白く上に伸びていた。

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